#08
オーバーサンプリングって、どんなメリットがあるの?②

旭化成エレクトロニクス (AKM) のA/Dコンバーター (以下ADC) 連載シリーズ第8話。
モーター製品を製造開発する架空のモーター企業の社員A君が、K先輩や上司のM課長とADCの知識を深めていくお話です。

前回に引き続き、オーバーサンプリング型ADCの利点を解説します。

 

A君

「オーバーサンプリング型でアナログローパスフィルター (以下LPF) のカットオフ周波数を高くできると何が嬉しいんですか?」

K先輩

「信号帯域をディジタルフィルター側で決められることね。アナログ素子は製造ばらつきや温度特性が大きいでしょ?」

A君

「確かに、LPFを構成している抵抗素子と容量素子って、個体ばらつきで数%、温度特性で数十%ばらついてもおかしくないですよね。精度の高い部品だと高価になるし」

K先輩

「このばらつきはそのままLPFのカットオフ周波数のばらつきになるし、見方を変えると位相遅延のばらつきになるよ」 (図1)

図1. カットオフ周波数ばらつき比較

A君

「位相遅延ってフィルターによって生じる遅延のことでしたっけ?」

K先輩

「だいたいそんなイメージかな。厳密には、それぞれの周波数成分に対して生じる遅延時間を、その周波数で割り算した数値ね」

A君

「カットオフ周波数がばらつくと、位相遅延量もばらつく。それって何が嫌なんでしたっけ?」

K先輩

「例えばエンコーダだとA相とB相の2つの信号は90度位相差が理想でしょう。遅延差があると困るよね。だからADCにも2ch同時サンプリングが求められているわけ」

A君

「それぞれ割り算することで角度θを求めるからですよね。確かに、A相とB相でカットオフ周波数がずれていると嫌です!」

K先輩

「カットオフ周波数を高くすると位相遅延の絶対値をぐっと抑えられるから、素子ばらつきへの耐性が高くなるってわけね」

A君

「なるほど。……あれ、ディジタルフィルターでは位相遅延は発生しないんですか?」

K先輩

「実は発生するよ。でも、ばらつきは抑えられている。なぜだかわかる?」

A君

「うーん。ディジタルフィルターのカットオフ周波数はどうやって変動するか、ってことですよね? ディジタルフィルターの場合はADCのサンプリングレートに依存しているから、ADCに与えるクロック周波数のずれには有感、ってことですか?」

K先輩

「そう。で、クロック周波数って普通は水晶発振器で作っているから、その周波数ばらつきは温度特性も含めて無視できるぐらい小さいよ。さらに、ADCが2ch内蔵品の場合は、A相とB相でずれることは無いし」

A君

「なるほど、素子ばらつきの影響を減らすためには、ディジタルフィルターを活用すべきなんですね」

K先輩

「あと、機種ごとにカットオフ周波数を変えたい場合ってあるよね。例えばエンコーダだと、機種ごとに回転速度の上限が違ったりするから、カットオフ周波数を微調整する場合とか」

A君

「ありますねー。ちょっと変えるだけなのに、基板上の部品を載せ替えて検証確認しないといけないから手間がかかるんですよ」

K先輩

「そんな時に、ディジタルフィルターだと楽ができるよ。アナログLPFは機種に依らず固定にして、ディジタルフィルターの方を機種によって演算回数、例えば平均回数などを変えるのね。ロジック信号に応じて演算回数を変える回路を組むのは簡単でしょ?」

A君

「それは楽ですね! 与えるロジック信号を変えるだけなら、基板を作り直す必要はないし検証も楽です。同じ基板でいいから量産性向上にもつながりますね」

K先輩

「でも良いことばっかりじゃないよ。オーバーサンプリング型の一番のデメリットは、後段のディジタルフィルターのせいで出力が大きく遅延してしまうこと」 (図2)

図2. 各ADCにおけるデータ出力の遅れ

A君

「ふむ?」

K先輩

「フィルターを高次にするほどその影響は顕著になる。急峻なフィルターを作ろうとするとOSRを高くする必要もあるので、オーバーサンプリング型ADCは本質的に高速化には向いていないんだ。実際、1マイクロ秒以内の入出力遅延が必要な場合、ほとんどのΔΣ型ADCはお手上げだよ」

A君

「えー、じゃあ速いエンコーダ用途では使えないじゃないですかー」

M課長

「ここで登場するのがAKMのZDS-NS型ADCだ!」

A君

「おお、M課長!」

M課長

「SAR型と同じデジタルインターフェース、同等の即時応答性だから使い勝手はSAR型と変わらない。それに加えてΔΣ型のオーバーサンプリング特性を備えているからナイキスト周波数は高く、LPFカットオフ周波数も高く設定できる。もちろん、内蔵ディジタルフィルターが高周波数ノイズを抑制してくれるぞ」 (図3)

図3. 各ADCの変換特性比較

A君

「つまりΔΣ型とSAR型の良いところ取りですか。これは凄い!」

M課長

「さらに、高域ノイズ抑圧効果の可変機能まで持っているぞ。簡単な可変ディジタルフィルターだな」

A君

「これは是非とも試してみたいです! ZDS-NSについてもっと詳しく教えて下さい!」

M課長

「よし、続きは次回だ!」

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