#10
1bit出力なのに16bit精度ってどういうこと?

旭化成エレクトロニクス (AKM) のA/Dコンバーター (以下ADC) 連載シリーズ第10話。
モーター製品を製造開発する架空のモーター企業の社員A君が、K先輩や上司のM課長とADCの知識を深めていくお話です。

今回は、1bit出力ΔΣ型モジュレーターを解説します。

 

A君

「見てくださいこの AK9223MK っていうADCのデータシート。16bit精度って書きながら、実は1bitしか出力されてないんですよ」

K先輩

「どれどれ……なるほど、ΔΣ型モジュレーターね」

A君

「広告に偽りあり、とはこのことです。ちょっと電話してきます」

K先輩

「やめてやめて。無知をさらすだけよ」

A君

「えー、じゃあなんで1bitが16bitになるんですか?」

K先輩

「よく見て。『ΔΣ型モジュレーター』でしょ。『ΔΣ型ADC』じゃないの」

A君

「そんな! ADCの紹介ページに載せてあるんですよ。……モジュレーターってなんですか?」

K先輩

「モジュレーターっていうのは変調器、という意味。ΔΣ型モジュレータはΔΣ変調器のこと」

A君

「それ、言い換えているだけですよね……」

K先輩

「ΔΣ変調されたデータ列に、ディジタルフィルターをかけるとΔΣ型ADCになるのね。 『ΔΣ型ADC』=『ΔΣ型モジュレーター』+『ディジタルフィルター』ってこと」 (図1)

図1. ΔΣ型ADCの内部構成

A君

「つまり、ΔΣ型モジュレーターを使う時は、ディジタルフィルターもユーザーが用意しないといけないってことですか? 面倒だなー。ディジタルフィルターも入れてくれれば良いのに」

K先輩

「この構成にはいくつかメリットがあるわ。1つ目は、ユーザーが任意にディジタルフィルターを組めること。欲しいアウトプットレートってユーザーによってかなり異なるからね。2つ目は、ディジタルフィルターを2つ以上用意すれば、それぞれのフィルター出力を得られること」

A君

「どういう時に2つ以上欲しいんですか?」

K先輩

「例えば、高精度で遅いデータ出力と、低精度だけど速いデータ出力を使い分ける時ね。故障検知の目的で、低精度でいいから速いデータが欲しい、って場合がある。モジュレーター出力だと2つのディジタルフィルターからデータを並列に得ることは簡単でしょ」 (図2)

図2. ディジタルフィルターの使い分け

A君

「なるほど。後段のディジタルフィルターを変えられると、汎用性が高くなるんですね」

A君

「ところで根本的な疑問ですけど、なんで1bitのデータ列から16bit精度の信号を入手できるんですか?」

K先輩

「厳密ではないけど、概念として簡単に説明するよ。電圧軸方向の分解能を時間軸方向に持たせている、と考えてみて。例えば0.25と表現するために、0,1,0,0の4つのデータを平均するイメージね」

A君

「電圧軸方向に16bitのデータを1つ表現するには、時間軸方向にたくさんのデータ列が必要、ってことですか。えーと、2の16乗だから…65536個のデータ??」

K先輩

「単なる平均だとそうなるけど、ΔΣ型では量子化ノイズが高周波数帯に変調されているから、ディジタルフィルターを適切に選べば必要なデータ数が大幅に減るのよ。この AK9223MK では約768個 (=256×3) のデータを用いたときに、データシートの特性を保証しているわ」

A君

「へえー。結局は、オーバーサンプリングとノイズシェーピングのおかげなんですか。……あれ、256はOSRですよね? なんで3倍のデータ数になっているんですか?」

K先輩

「3次のSINCフィルターだと、OSRの3倍のデータ数が必要なの。AK9223MK は内部ΔΣ変調を2次で行っているから、3次以上のSINCフィルターを使用することが多いよ」

K先輩

「モーター電流検出では、この1bit出力ΔΣ型モジュレーターに絶縁機能を付加した『絶縁型ΔΣモジュレーター』が普及しているわ。よく『絶縁型ADC』って呼ばれるけど、実際はモジュレーターね」

A君

「絶縁型ADCってよく聞きますけど、中身はよく知らないんですよ」

K先輩

「絶縁型ADCは、1次電圧側にアナログ入力を受けるΔΣ型モジュレーターがあって、その1bitデータ列を内蔵フォトカプラでガルバニック絶縁を行ってから、2次電圧側で1bit出力しているのよ」

A君

「なるほど、フォトカプラの前段に1bit出力ΔΣ型モジュレーターが内蔵された製品なんですね」 (図3)

図3. 絶縁型ADCの内部構成

K先輩

「モーター電流検出ではこの絶縁型ADCとシャント抵抗の組み合わせが主流だけど、もっと応答性を上げたい、って場合があるよね」

A君

「たしかに、モーター電流検出における高速化ってトレンドですね。そうか、ΔΣ型だとディジタルフィルターの遅れが大きいから、高速化には向かないわけですか」

K先輩

「AKMは電流センサーとZDS-NS型ADCの組み合わせで、モーター電流検出に新しいソリューションを提案しているよ」 A君「お! ZDS-NS型ADCの具体的な使い方、ですね!」

K先輩

「続きは次回!」

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