NDIR (非分散型赤外線) 方式とは

NDIR 方式のガスセンサーではガス分子 (例.CO2) が赤外線を吸収する性質を利用してその濃度を算出します。そのため、NDIR 方式のガスセンサーには赤外線を放出する赤外線光源と赤外線を検出する赤外線センサーが搭載されており、搭載する赤外線光源と赤外線センサーの種類によって NDIR 方式のガスセンサーは性能が異なります。
ここでは、NDIR 方式の原理と構成部品の赤外線光源とガスセンサーについて解説します。

構成部品その 1 : 赤外線光源 (Light emitter)

赤外線光源は、光型と熱型の 2 種類に大きく分類することができます。光型は、半導体内の電子と正孔の再結合を利用し電流を直接光に変換する方式です。熱型は、発熱抵抗体に電流を流し、物体を加熱して発光させる方式です。各方式を具体的な製品の特長と合わせてご説明します。

3種類の赤外線光源を比較したのが下記の表となります。 (✓ が長所、× が短所。)

図 1. NDIR 方式 CO2 センサーの赤外線光源(Light emitter) 図 1. NDIR 方式 CO2 センサーの赤外線光源(Light emitter)

表 1. 赤外線光源の比較

赤外線光源 LED ランプ MEMS
ヒーター
タイプ 光型 熱型 熱型
応答速度 ✓​ × ×
消費電流 ✓​ × ×
寿命 ✓​ × ×
表面実装 ✓​ × ×

1-1 : LED (光型)

LED (発光ダイオード) に順方向の電圧をかけると、電子と正孔が移動し再結合が生じます。この再結合が起きる際に、物質固有の波長の光を放出するため、白色 LED や青色 LED のような人の目に見える可視領域の LED は、日常生活のいたるところで使用されています。しかし、ガス分子の多くは、可視領域ではなく赤外線領域に吸収波長を持っているため、NDIR 方式のガスセンサーに適した赤外線を発光する LED が必要となります。そのため、旭化成エレクトロニクス (AKM) は、ガスの吸収がある赤外線領域に発光波長を持つ LED の開発を行っています。

図 2. LED (NDIR CO2 センサーの赤外線光源) 図 2. LED (NDIR CO2 センサーの赤外線光源)

NDIR 方式のガスセンサーの赤外線光源として LED は優れており、熱型の光源と比べて、応答速度が圧倒的に早く、発光時間を限りなく短くし、ガスセンサーの消費電力を小さくすることができます。実際に、AKM の 赤外線LED と 赤外線センサー を使用することにより、バッテリーで 4 年の駆動が可能なガスセンサが市販されています。 (アプリケーション/採用事例 をご参照ください。) バッテリー駆動により、どこでも手軽に精密に CO2 濃度を測定することが可能になりました。その他にも、LED は電流を直接光へ変換するため、LED 自体が高温にはならず着火源になることはないため、可燃性を有する冷媒ガスなどのガスセンサー光源に適したソリューションです。

このような可燃性ガスのセンサーは、IEC 規格によって、その構成が厳しく定められており、発熱が極めて小さい LED を使用することによって、安全性が格段に向上します。また、AKM の LED は樹脂パッケージのため、表面実装が可能な点や、振動に強いなどパッケージ自体にも特徴を持った LED となっています。

1-2 : ランプ (熱型)

ランプの光る仕組みは、ランプの中にあるフィラメントに電流を流すと、ジュール熱が発生してフィラメントが発熱し高温になることで発光するというものです。フィラメントとして一般的であるタングステンは、2000~3000℃ の高温になります。フィラメントは極めて高温になるため、フィラメント自体が酸化したり、蒸発することを防ぐのを目的に、管球内は希ガスやハロゲンガスが封入する工夫がなされています。

ランプは古くからある非常に一般的な赤外線光源であり、ガスセンサーの光源としても有用です。ガスは、その種類によって固有の赤外線の吸収を持っています。ランプは、可視領域から赤外領域まで幅広い帯域の光を一度に出すことができるため、1 つのランプで様々なガスの種類に対応可能です。そのため、ランプは汎用的な光源として使うことができます。一方、熱型の赤外線光源は、温度が上昇して発光するまでの時間が必要なため、それに応じて、電圧を印加する時間も長くなり、消費電力が大きくなります。また、フィラメントは振動に弱いという欠点もあるため、ガスセンサーの赤外線光源として使用する場合は、ガスセンサーの設置する周囲環境に注意が必要です。

図 3. ランプ (NDIR CO2センサーの赤外線光源) 図 3. ランプ (NDIR CO2センサーの赤外線光源)

1-3 : MEMS ヒーター (熱型)

発光の原理はランプと同じで、発熱を利用しています。半導体プロセスにより加工された微細な薄膜の抵抗発熱体に電流を流すことで発熱し発光します。MEMS ヒーター光源は発熱部を高温にすることが重要であるため、発熱部は非常に小さく、熱を逃がさないように熱伝導経路を狭くしたり ( 折り返しや、渦巻きパターンなど ) 、周囲の材料の熱伝導を考慮した設計になっています。

熱型光源の中でも、MEMS ヒーターは発熱しやすいように熱容量を小さく設計にしているため、応答速度がランプよりは早く、LED よりは遅いです。また、ランプほど高温にはならないため、発光波長帯域はランプよりは狭いですが、LED よりは広いです。ガスの吸収波長にマッチしていれば、ランプよりも高速応答のガスセンサーの光源として使うことが可能です。MEMS ヒーターは微細な構造を持つため、ランプと同様に振動に弱いという欠点が存在します。さらに、高温部がむき出しになっているため、可燃性を有するガスを測定するには不向きな赤外線光源になります。

図 4. MEMS ヒーター(NDIR CO2 センサーの赤外線光源) 図 4. MEMS ヒーター(NDIR CO2 センサーの赤外線光源)

構成部品その 2 : 赤外線センサー (Infrared sensor)

赤外線センサーも光型と熱型の2種類に大きく分類することができます。光型は、半導体の光起電力を利用し、光を直接電流に変換する方式です。熱型は、物体が温まることにより、温度差から生じた電圧や分極を検出する方式です。各方式を具体的な製品の特長と合わせてご説明します。

3種類の赤外線センサーを比較したのが下記の表となります。 (✓ が長所、× が短所。)

図 5. NDIR 方式 CO2 センサーの赤外線センサー(Infrared sensor) 図 5. NDIR 方式 CO2 センサーの赤外線センサー(Infrared sensor)

表 2. 赤外線センサーの比較

赤外線センサー フォト
ダイオード
サーモパイル 焦電センサー
タイプ 光型 熱型 熱型
応答速度 ✓​ × ×
寿命 ✓​ × ×
表面実装 ✓​ × ×

2-1 : フォトダイオード (光型)

P 型半導体と N 型半導体を接合することで形成される空乏層に光 ( 赤外線 ) が吸収され、光起電力が発生します。この原理を利用したのがフォトダイオードです。一般的に、中赤外線領域に感度を持つフォトダイオードは冷却しなければ光起電力による電流と、熱によるノイズ電流を切り分けることが困難と言われてきました。旭化成エレクトロニクスは、 InSb 材料の半導体薄膜技術により冷却せずに使用可能な中赤外領域のフォトダイオードを量産化しました。また、吸収される光の波長は、フォトダイオードの材料固有となっており、ガスセンサーの赤外線センサーとしてフォトダイオードを使用するためには、ガス分子の吸収波長帯である赤外線領域に感度を持つことが重要です。 そのため旭化成エレクトロニクスでは、可燃性ガス・冷媒ガス向けの 3.3um、CO2 向けの 4.3um 帯に感度を最適化したフォトダイオードをラインナップ化しており、対象ガスにあわせた製品を選定して NDIR 方式のガスセンサーにご利用いただけます。

図 6. フォトダイオード (NDIR CO2センサーの赤外線センサー) 図 6. フォトダイオード (NDIR CO2センサーの赤外線センサー)

このフォトダイオードを NDIR 方式のガスセンサーに組み込んだ場合、フォトダイオードは光型の検出器であるため、熱型のものと比べて、応答速度が圧倒的に速く (typ. 2 μs) 、赤外線光源のLEDと合わせて使用することで消費電力を小さくすることが可能です (センサーコア Sunrise)。実際に旭化成エレクトロニクスの LED とフォトダイオードを使用することにより、バッテリーで 1 年以上の駆動が可能なガスセンサが市販されています (採用事例)。また、旭化成エレクトロニクスのフォトダイオードは樹脂パッケージのため、表面実装が可能な点や、振動に強いなどパッケージにも特徴を持ったフォトダイオードとなっています。 

2-2 : サーモパイル (熱型)

サーモパイルは、物体の温度差が電圧に変換されるゼーベック効果を利用した赤外線センサーです。温度差を生じさせる物体を熱電対とよび、温かい側を温接点、冷たい側を冷接点と呼びます。この熱電対に温度差が生じやすいように、温接点側には赤外線吸収膜により熱が集まりやすい構造がとられたり、冷接点側は熱が逃げやすいように配置されています。また熱電対を直列に接続して起電力が大きくなるような構造をしています。パッケージは TO-5 などの缶パッケージのものが多く、真空にして熱伝導率を下げ、熱を逃しにくくしたり、窒素ガスにより封止し、環境湿度からの影響を受けない工夫がされています。

サーモパイルは、赤外線領域の広い範囲に感度を持つため、サーモパイルと対象のガスに最適な光学フィルタを使うことで、NDIR 内に設置する赤外線センサーとして使うことができます。また、光学フィルターを変更することで、様々なガスの検出が可能となります。一方、サーモパイルは熱型の赤外線センサーでり、温度差が生じるまでに時間を要するため、応答速度は速くありません (>200msec) 。そのため、赤外線光源の駆動時間が長くなり、必然的に消費電力が大きくなります。また、缶パッケージ内は真空、もしくは、封止ガスを入れているため、自動車など振動によりパッケージへのダメージが心配される環境には不向きな赤外線センサーです。

図 7. サーモパイル (NDIR CO2センサーの赤外線センサ) 図 7. サーモパイル (NDIR CO2センサーの赤外線センサ)

2-3 : 焦電センサー (熱型)

焦電センサーでは、強誘電体が赤外線を受け、温まることにより内部の分極が変化し電荷を発生させます。このような現象を焦電効果と呼び、焦電センサーはこの効果を利用しています。強誘電体には PZT ( チタン酸ジルコン酸鉛 )、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどが挙げられます。焦電センサーは、湿度依存性があるため、真空の缶パッケージ構造をしているものが多数です。

焦電センサーもサーモパイルと同様に、赤外線領域の広い範囲に感度を持つため、ガスに最適な光学フィルタを取り付けることで、NDIR の赤外線センサーとして使うことができます。焦電センサ―も熱型の赤外線センサーであり、強誘電体が温まるまで時間を要するため、応答速度は速くありません (>200msec)。そのため、サーモパイル同様に、赤外線光源の駆動時間が長くなり、必然的に消費電力が大きくなります。また、缶パッケージ内を真空にしているものが多いため、自動車など振動によりパッケージへのダメージが心配される環境には不向きな赤外線センサーになります。

図 8. 焦電センサー (NDIR CO2センサーの赤外線センサ) 図 8. 焦電センサー (NDIR CO2センサーの赤外線センサ)