低ドリフトホール素子
#05 磁気センサー 基礎知識
低ドリフト ホール素子
ガリウムヒ素
(GaAs)
ホール素子の原理と種類 では、3 種類のホール素子 (超高感度ホール素子、高感度ホール素子、低ドリフトホール素子) を紹介しました。
このページでは、低ドリフトホール素子のアプリケーション例について説明します。
半導体材料 (AKM 製品名)
ガリウムヒ素:GaAs (HGシリーズ)
特徴
3 つのホール素子の中で最も温度特性が安定した素子です。 定電圧駆動よりも定電流駆動することで、さらに温度特性が安定します。
代表的なアプリケーション
(1) スマートフォンカメラの手振れ補正機構
手振れ補正とは、手振れの動きを補正する方向にレンズの位置を移動し、被写体ブレを抑える機構です。デジタルカメラや、一眼レフカメラ、スマートフォンに採用されています。
手振れの動きはジャイロセンサーで検知し、その手振れ量に応じて、レンズの移動量 (レンズ位置) が決められます。ホール素子はこの手振れ補正機構の中で、レンズの位置を検出しています。
レンズの移動方向に磁石の着磁方向を揃えて配置します。そして、レンズが原点にある場合に、ホール素子が磁石の磁極のちょうど境目にくるように配置します。 この配置にすると、磁石の S 極 / N 極の境目を中心に、磁石の移動量に対してホール素子に印加される磁場が比例的に変化する領域が存在します。
この領域の範囲内では磁石の位置を精密に検出することができます。
(磁石の移動量 ∝ 磁場変化 ∝ ホール出力電圧)
手振れ補正の主要部材は、磁石、レンズの位置を検出するホール素子、レンズを駆動するコイルです。
手振れによる被写体のブレを抑えるため、コイルに電流を流し、コイルと磁石の反発・吸引力によりレンズを動かします。
レンズに取り付けた磁石の位置をホール素子が検出することで、レンズの位置を検出し、レンズを補正したい位置へ正確に移動させることができます。
手振れ補正検出では温度特性の安定した GaAs ホール素子を使用することで、測定環境温度によらず安定した位置検出ができます。
また、ホール素子は非常に小さなサイズもラインアップされているため、スマートフォンなどの高密度実装が必要な製品に応用することができます。
(2) オープンループ型電流センサー
磁気式の電流センサーは、測定対象の電流線の周囲に発生する磁場 (磁束密度) を測定することで、電流量を検出するセンサーです。
オープンループ型電流センサーは、エアコンのインバーター制御部や、太陽光発電のパワーコンディショナーの DC 検知部などで採用されています。電流から発生する磁束密度についてはビオ・サバールの法則により、下記の式で表されます。
B = μ0× (1/ (2×π×r) ) × I
B : 磁束密度
μ0 : 真空透磁率
r : 電流線からの距離
I : 電流
この式から分かるように、電流と磁束密度は比例関係になっており、ホール素子で電流線から発生する磁場を測定することで、電流線に流れる電流量を正確に測定することができます。また、シャント抵抗を使って直接測定する方法とは違い、磁場を使って測定しているため、測定対象の電流線とセンサー信号を絶縁した状態で、ロスなく測定できるメリットがあります。
オープンループ型電流センサーの主要部材は電流線、磁場を集めるコアと呼ばれる磁性体、ホール素子、アンプです。電流線の周りを覆うようにコアを、コアのギャップ部にホール素子を配置し、ホール素子の出力にアンプをつけます。電流線に電流が流れると、発生した磁場はコアに集められ、ホール素子に印加されます。
電流線に流れる電流値と発生する磁場は比例しているので、このホール素子に印加される磁場から電流線に流れる電流を定量的に検出することができます。
(測定したい電流値 ∝ 磁場 ∝ ホール出力電圧)
オープンループ型電流センサーは、温度特性に優れた GaAs をセンサーとして使用することで、簡潔な構成でありながら測定環境温度によらず安定した測定結果を得ることができます。