ホール IC の原理と種類

#07 磁気センサー 基礎知識  

ホール IC は High/Low のデジタル出力をするセンサーで、後段のドライバーやマイコンでの処理が容易なことから、様々な白物家電や産業機器で広く使用されています。このページでは、ホール IC の原理と種類を説明します。

ホール IC の原理

ホール IC は、ホール素子と信号処理 IC で構成されています。ホール素子の出力電圧を信号処理 IC でコンパレートし、High/Low 信号に変換して出力するセンサーです (図 1) 。このためホール素子のように「どのくらいの強さの磁場が印加されたか」などの細かな情報を得ることはできません。しかし、「磁石がある/ない」などのデジタル出力を簡単に得ることができます。

また、ホール IC の出力電圧範囲は出力のプルアップ電圧で規定されるため、電源電圧にプルアップする場合は、後段マイコンの入力電圧範囲にホール IC の電源電圧を合わせることでマイコンで受けやすくなるメリットがあります。

ホール IC の原理 図 1. 動作回路(参考図)

ホール IC の種類

ホール IC には検出する磁極の違いにより、スイッチタイプホール IC(片極検知・両極検知)とラッチタイプホール IC があります。また内部 IC の駆動方式の違いにより、連続駆動型と間欠駆動型に分けられます。

◆ 検出する磁極の違いによる分類

スイッチタイプホール IC

(1)  片極検知

S 極のみ(あるいは N 極のみ)で動作するホール IC です。S極動作の場合、N 極の磁場が印加されている時やS 極が十分に離れていて無磁場の時には、出力は High になります。

図 2a のように磁石の S 極をホール IC を近づけていき、ホール IC に印加される磁場が図 2b の Bop を上回ると、出力は Low になります。

次に出力が Low の状態で磁石をホール IC から遠ざけ、S 極の印加磁場が Brp を下回ると、出力は High になります。

* 旭化成エレクトロニクス (AKM) のスイッチタイプホールIC は、S 極の片極検知のみラインアップされています。

片極(S 極)検知ホール IC と磁石の配置例 図 2a. 片極(S 極)検知ホール IC と磁石の配置例
片極(S 極)検知ホール IC の動作 図 2b. 片極(S 極)検知ホール IC の動作

(2) 両極検知

S 極・N 極の両方で動作するホール IC です。磁石が十分に離れていて無磁場の時の出力は High となります。

図 3a のように S 極・N 極に関わらず磁石を近づけた時に、ホール IC に印加される磁場が図 3b の Bop を上回ると、出力は Low になります。

次に出力が Low の状態で磁石をホール IC から遠ざけ、印加磁場が Brp を下回ると、出力は High となります。

両極検知のホールICは、磁石の設置向きが任意の場合に有用です。

* AKM 製品にはラインアップがありません。

両極検知ホール IC と磁石の配置例 図 3a. 両極検知ホール IC と磁石の配置例
両極検知ホール IC の動作 図 3b. 両極検知ホール IC の動作

両極検知のホール IC には、図 3c のような S 極と N 極の出力端子が別々になった 2 出力タイプのホール IC もあります。このホール IC は、磁石が離れていて無磁場の時は、S 極出力・N 極出力ともに High となります。

磁石を近づけると、近づけた極の出力が Bop を上回った場合に Low に切り替わります (*1)。

2 出力タイプのホール IC は 、S 極・N 極の二つの出力端子が存在するので、磁石の極性も検知したい時に有用です。

* AKM 製品にはラインアップがありません。

*1  同時に S 極・N 極の二つの磁石を近づけて磁場を印加させても、磁石同士が磁場を打ち消し合うので両方の出力端子が同時に High になることはありません

 両極(2 出力)検知ホール IC の動作 図 3c. 両極(2 出力)検知ホール IC の動作

ラッチタイプホール IC

このホール IC は、S 極・N 極両方の磁場を交互に検知して動作します。S 極側が Bop 、N極側が Brp が一般的です。

ホール IC に Bop を越える S 極の磁場が印加されると、出力は Low になります。その後、図 4a のように磁石が回転してホール IC に印加される磁場が小さくなって無磁場になっても、出力は Low を維持します (図 4b)。

更に磁石が回転してホール IC に Brp を越える N 極の磁場が印加されると、出力は High に切り替わります。その後、磁石が回転して磁場が変化しても、ホール IC の出力は Bop 以上の S 極磁場が印加されるまで維持します。

このホール IC は、印加される磁場の極性が変わるまで出力は保持(ラッチ)されることから、ラッチタイプと呼ばれています。

ラッチタイプホール IC と磁石の配置例 図 4a. ラッチタイプホール IC と磁石の配置例
ラッチタイプホール IC の動作 図 4b. ラッチタイプホール IC の動作

◆ ホール IC の駆動方式による分類

連続駆動型ホール IC

一般的なホール IC はこのタイプです。モーターの磁場検出など、磁場の変化が速いアプリケーションに使われています。

間欠駆動型ホール IC(低消費電力ホール IC)

モバイル機器などバッテリー駆動で消費電力を抑えたいアプリケーションに使われています。図 5 のように、ホール IC は周期的に SLEEP と AWAKE を繰り返し、AWAKE 時に磁場を検出して出力が確定し、SLEEP は出力を維持します。SLEEP の時間が長いほど低消費電力になりますが、磁場の変化が速いアプリケーションには向いていません。モバイルパソコンの開閉検出などが代表的なアプリケーションです。

* AKM 製品には、ラインアップはありません。

ホール IC の駆動方式による分類 図 5. 間欠駆動の動作例

◆Tips

ホール IC にはなぜヒステリシスが存在するのか?

ホール IC は出力が High から Low に変化する磁場の値(Bop)と Low から High に変化する磁場の値(Brp)は異なります。この磁場の差のことをヒステリシス(Bh)と定義します(Bh=Bop-Brp)。ヒステリシスは、ホールICの誤動作防止のために、意図的に設定しています。

ヒステリシスを設定しない場合、Bop=Brp となります。ちょうどこの磁場が印加された場合、磁場の微小な変化(磁場ノイズ)によりホール IC の出力は High と Low を繰り返す、チャタリングと呼ばれる現象が起こる可能性があります (図 6a)。そのため、Bop と Brp の間にヒステリシスを設けることでチャタリングを防止し、誤作動が起きないようにしているのです (図 6b) 。

ホール IC ヒステリシスがなかった場合のノイズの影響 図 6a. ホール IC ヒステリシスがなかった場合のノイズの影響
ホール IC にヒステリシスを設定したことによる効果 図 6b. ホール IC にヒステリシスを設定したことによる効果