ラッチタイプホール IC

#09 磁気センサー 基礎知識

ホール IC は High/Low のデジタル出力をするセンサーで、S 極 /N 極両方の磁場を交互に検知するホール IC をラッチタイプホール IC と呼びます。このページでは、ラッチタイプホール IC のアプリケーション例について説明します。

ラッチタイプホール IC とは ?

特徴

ラッチタイプホール IC は、磁石の S 極および N 極の磁極の切り替わりで動作するセンサーです (「ホール IC の原理と種類」参照) 。古くから DC ブラシレスモーターのローター磁石の磁極の検知に広く使われてきました。近年では簡単なロータリーエンコーダーなどの用途にも使われています (AKM の EW ホール IC は高感度、高速動作で DC ブラシレスモーターに多く使われています) 。

代表的なアプリケーション例

(1) DC ブラシレスモーター

DC ブラシレスモーターとは直流電流で回転する、高効率でメンテナンスフリーなモーターです。エアコンのファンモーターや白物家電製品のメインモーターなどに採用されています。原理の詳細は、「超高感度ホール素子」を確認ください 。

DC ブラシレスモーターの主要構成部材は、磁石、ホール IC、コイルです。

ローターと呼ばれる回転子は磁石で、図1 のように中心部に配置します。ステーターと呼ばれる固定子はコイルで、各ホール IC の出力信号に従って電流が通電、遮断されます。ホール IC は、ローター磁石からの最大磁場が得られる位置に取り付け、ローター磁石の磁場を検出します。ホール IC は、通電するコイルをタイミングよく制御し、即ちコイルによって発生する磁場の場所と向きをタイミングよく切り替え、ローター磁石との吸引・反発を繰り返すことで、ローター磁石は一方向に回転し続けます。

DC ブラシレスモーター 図 1. DC ブラシレスモーターの原理図

これは、基本的に超高感度ホール素子(1)DC ブラシレスモーターのホール素子をホール IC に置き換えただけの構成ですが、ホール IC を使うことでホール素子後段の増幅回路が不要となり、また、出力電圧が High と Low のデジタル出力の為、特にモーターからマイコンまでの配線が長い場合にノイズ耐性に優れる等のメリットがあります。出力信号を直接マイコンに入力できるので使いやすくなります。

(2) ロータリーエンコーダー (インクリメンタルタイプ)

ロータリーエンコーダーとは、回転位置・回転角度・回転数を計測するセンサー機構のことです。モーターの回転制御や回転体の角度位置検出に使われています。

ロータリーエンコーダーの主要構成部材は、多極磁石、ホール IC×2 個、回転軸です。

回転方向と水平になるように、円柱またはドーナツ型の多極磁石を回転軸に取り付けます。

2 つのホール IC の位置関係は、磁石の S 極・N 極の1極対を一周期とした場合に、互いのホール IC が 1/4 周期ずれた位置に配置します。

※ホール IC 1 個でも磁石の極の切り替わりを検出するので回転位置や回転角度を検出することは可能です。しかしホール IC 2 個の配置を工夫することで、回転角度の検出分解能の向上や回転方向の検出が可能になります。

図 2a の例は、回転体が時計回りに回転している状態です。磁石が回転すると、 1/4 周期動く毎に、この二つのホール IC の出力が変化し、その出力変化を使って、回転体がどれくらい動いたか検出することができます。磁石がさらに回転すると、ホール IC はパルス列を出力し、そのパルス数をカウントすると回転数を検出することができます。

また、二つのホール IC の出力を論理演算することにより、磁石の回転方向を2値化で出力することも可能です。

CW の時のインクリメンタルロータリーエンコーダーの回転の様子と出力波形 図 2a. CW の時のインクリメンタルロータリーエンコーダーの回転の様子と出力波形

図 2b の例は、回転体が反時計回りに回転している状態です。図 2a のときと同様に 1/4 周期で出力が変化していきますが、時計回りの時と大きく異なるのは、その出力の切り替わりの順番が逆転していることです。

例えば、図 2a の時計回りの時、どちらのホール IC も High 出力  になるのは (4) と (8) の位置ですが、1/4 回転した (5) と (9) の位置ではどちらも H1:L,H2:H になります。

一方、反時計回りの時、どちらのホール IC も High 出力になるのは (7) と (3) の位置ですが、1/4 回転した (6) と (2) の位置はどちらも H1:H.H2:L となり、即ち H2 が先に出力が切り替わり、出力の切り替わりの順番が逆転しています。

このように、ホール IC の出力の切り替わりの順番を知ることで、どちらに回転しているかを検出することができます。例えば、H1 の立上り・立下りをトリガーにして2つの出力の XOR を演算すると、H または L の結果が得られ回転方向を判別することが可能となります。

CCW の時のインクリメンタルロータリーエンコーダーの回転の様子と出力波形 図 2b. CCW の時のインクリメンタルロータリーエンコーダーの回転の様子と出力波形

回転検知にラッチタイプホール IC が適している理由

回転体の検出センサーとしてラッチタイプホール IC の代わりにスイッチタイプホール IC を使用した場合、磁石の極数に応じて、ラッチタイプと同じ数のパルスが出力されますが、そのデューティー比はラッチタイプに比べて悪化します (図 3)。

これは、ラッチタイプは Bop/Brp が、0 磁場を挟んで対称に設定されているためデューティー比が 50% になるのに対し、スイッチタイプは Bop/Brp が同じ極に設定されているためです。片極検知の場合、N 極領域は High 出力となるため、Low の時間が短くなります。

ラッチタイプホール IC とスイッチタイプホール IC で回転磁石の磁界を検出したときの出力電圧の差 図 3. ラッチタイプホール IC とスイッチタイプホール IC で回転磁石の磁界を検出したときの出力電圧の差