CO2 レベルを測定することで、空気質を制御することができます。これにより、エネルギーを節約しながら健康的な室内環境を保つことができます。
CO2 センサー
私たちは日常の多くを、部屋や教室、オフィス、店舗などの室内で過ごしています。人が集まるほど CO2 濃度は上昇し、換気が十分でない環境では空気質が低下します。その影響は健康面にとどまらず、集中力や生産性、さらには意思決定のパフォーマンスにまで及ぶことがあります。こうした理由から、適切な換気によって室内の空気質を保つことが重要です。
一方で、換気を過剰に行うと空調エネルギーの消費が増え、運用コストの上昇につながります。快適さ・健康・エネルギー効率のバランスを保つことが求められています。
そのため、室内の CO2 濃度を空気質の指標として測定し、空調や換気システムの運転を適切に制御するアプローチが注目されています。
世界各国で室内空気質についてのガイドラインが定められており、CO2 濃度についても基準が決められています。
例えば日本の場合、厚生労働省の建築物環境衛生管理基準において、建築物では CO2 濃度を 1000 ppm 以下に保つよう定められています。この濃度を超えると不快と感じるようになり、さらに濃度が高くなると血中酸素濃度の低下を引き起こし、眠気・頭痛・倦怠感を引き起こし、人体に様々な影響が出てきます。また仕事や勉強においても生産性低下を引き起こします。睡眠にも影響が出ます。
実際に、CO2 が人体に与える影響について、下記のような様々な文献が発表されています。
屋内で 500〜800ppm の CO₂ 濃度であれば、低濃度で人体には無害であるとみなされます。しかし、濃度が上がるにつれ、眠気を引き起こし、学習パフォーマンスや意思決定力の低下といった私たちの認知能力に影響を与えます。 80,000 ppm を超えるレベルでは意識を失い、最終的には死に至ります。
CO2 濃度が 1500ppm ~ 3000ppm で人間の能力・健康への影響がみられることが分かります。
#1 1500ppm~ : 意思決定能力を計測するテストでスコアが悪化
#2 2500ppm~ : 試験の合格率が低下
#3 2500ppm~ : 意思決定能力を計測するテストでスコアが悪化
#4 3000ppm~ : 自律神経のバランスと相関がある心周期変動の特定周波数成分が変化
(#1 ハーバード公衆衛生大学院 2016 年 1 月)
(#2 ハーバード公衆衛生大学院 2018 年 1 月)
(#3 ニューヨーク州立大学 2012 年 12 月)
(#4 ブタペスト工科州立大学 2012 年 3 月)
CO2濃度とパフォーマンスの関係
CO2 濃度 2500ppm以上で眠気が増加し、1500ppm 以上で睡眠の質が低下することが分かります。
#1 1500ppm~ : 主観的な睡眠効率が低下
#2 1700ppm~ : 主観的な睡眠の質が低下
#3 2500ppm~ : 主観的な眠気が増加
#4 2700ppm~ : 眠気の進行を示す脳波が増加
#5 3500ppm~ : 主観的な眠気が増加 *自動車実走行で検証
(#1 早稲田大学 2018 年 9 月)
(#2 デンマーク工科大学 2014 年 10 月)
(#3 タンペレ工科大学 2016 年 1 月)
(#4 サウサンプトン大学 2018 年 11 月)
(#5 台北医科大学 2020 年 1 月)
オフィスでの空気質と省エネ
建物内での CO2 発生源は、主に室内にいる人たちの呼吸です。 通常は CO2 濃度は 400 (誰もいない部屋での CO2 濃度) 〜 2,500ppm の範囲です。CO2 濃度は人が増えるほど増加していきます。
まずは「窓を開ける」ことも大事ですが、さらに換気をコントロールするシステムの導入をお勧めします。CO2 センサーで CO2 濃度を測定し、換気装置や可変風量装置 (VAV : Variable Air Volume system) に信号を送り、個々のファン・ダンパー・バルブなどを制御することで部屋に必要な換気レベルをコントロールします。
もちろん空気は CO2 だけで構成されているわけではありませんが、部屋を換気するとウイルスやバクテリアの数が減少するため、結果的に室内の空気の質も向上します。
欧州では、EU の建築物エネルギー性能指令 (EPBD) により、2020 年以降の新築建築物に「Nearly Zero Energy Building (nZEB)」の性能が義務付けられ、さらに Zero-Emission Building (ZEB) 基準の導入が進んでいます。
米国でも、連邦政府が Zero-Emissions Building の定義を公表するなど、建築物の脱炭素化に向けた政策が強化されています。また、カリフォルニア州をはじめとする多くの州で、Zero Net Energy (ZNE) 建築を推進するプログラムが拡大しており、州政策や民間市場が連携してZNEの普及を進めています。
日本でも、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」により、新築住宅・建築物における断熱性能や一次エネルギー消費量の基準適合が段階的に義務付けられ、高気密・高断熱化が進んでいます。
こうした世界的な潮流により住宅の省エネ性が高まる一方、気密性の向上によって換気が不十分となり、室内 CO2 濃度の上昇や空気質の悪化が懸念されています。そのため、断熱性能の向上とあわせて、CO2 センサーを活用した換気制御の重要性が高まっています。
換気をする上で、季節によって暖房・冷房の需要も変化しますし、オフィスビル・教室・映画館などの商業ビルでは訪れる人の数も日によって大きく異なります。最大人数を前提に換気を行うと、部屋に誰もいないときのエネルギーが無駄になってしまいます。そこで、CO2 センサーをうまく使うことで、各部屋ごとの状況に応じて必要な空気量を見積もり、換気制御することができます。
旭化成エレクトロニクス (AKM) では、実際の飲食店や家屋での実証実験で、弊社の CO2 センサーが空気質の把握と改善に効果的であることを確認しました。
国際エネルギー機関 (IEA:International Energy Agency) の「建物・地域システムの省エネプログラム」に参加している 13 カ国では、すべての建物の換気に起因する一次エネルギー消費量は、各国の一次エネルギー消費量全体の 9% に相当すると推定されています。
米国の住宅の換気には、年間推定3エクサジュール (EJ : ジュールの 10 の18 乗 ) のエネルギーが使用されており、これはこれらの建物で使用される全エネルギーの約 30% にあたります。米国のサービス業 ( 商業施設、機関、政府機関などの建物 ) では、換気のために消費されるエネルギーは 1.5 EJ と推定され、サービス業の建物の総エネルギー使用量の約 4 分の 1 を占めています。また、換気に起因する年間の二酸化炭素排出量は、米国の住宅部門で約 1,000 トン、サービス部門で約 8 億トンとなっています。
換気の温度調整に必要なエネルギーは、気候に大きく影響されます。欧州では、このエネルギーのほとんどが換気用空気の加熱に使用されます。米国では、暖房と冷房の両方にかなりのエネルギーが使用されています。湿度の高いマイアミの気候では、エネルギーの 86% が換気用空気の水分除去に使われています。
地球環境のためにはこれらのエネルギーを如何に抑えるかを考慮し、行動することが必要となります。
CO2 濃度を測定する上で、どこにセンサーを設置するかは、その空間の広さによっても異なります。レストランやロビーなどの大きなエリアであれば、換気システムの場所に設置して排出される空気の CO2 濃度を検知する方が理にかなっています。片側の壁にセンサーを設置すると、反対側の CO2 レベルを誤認してしまう可能性が高いからです。 一般的な広さの部屋では、壁にセンサーを設置すれば十分です。
尚、CO2 と温度の分布には違いがあります。温度は部屋全体で均一になります。一方、CO₂ 濃度は、部屋の一端で 3,000ppm、もう一端で 600ppm と異なる場合があることを認識しておく必要があります。
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すべての窓やドアを閉め切った室内では、空気清浄機で汚染物質を取り除いても、CO2 濃度が高くなる場合があります。こうした特性をユーザーに案内している空気清浄機メーカーもあります。
快適で健全な空気環境を保つためには、空気清浄機に加えて CO2 センサーを併用することが効果的です。
空気質への関心が高まる中、室内の CO2 濃度を精度よく測定するための機器が、各メーカーから数多く提供されています。
当社センサーを搭載した製品の中から、その一部をご紹介します。
2018 年に旭化成エレクトロニクス (AKM) グループの一員となった Senseair は、非分散型赤外線 (NDIR: Non-Dispersive Infrared) 方式の技術を用いたガスセンサーのプロバイダーです。常に新しいガスセンサーの技術開発および量産化を目指しています。